その姿は、とても「しあわせなかたち」に見えた。
長く伸びる影は無邪気に繋がる。伸ばした手を握る無骨な手はその性格に違わず不器用で、それでも言葉にせずとも分かるような優しさが影からも滲みでているようだった。堂島さんは、決して職場では浮かべないような笑みを、優しさを、愛を、全てを無償で注いでいた。奈々子ちゃんはそれだけ大事なのだ。あの頑固な堂島さんの人生を一瞬で動かしてしまう、小さな存在は実に怖い。奈々子ちゃんはそれを知らずに向けられた愛を喜ぶのだろう。
歪なようで、正しい家族のかたち。
それは、それはとても不思議な感覚だった。
(僕には、分からないなぁ)
この町には望まない優しさが多すぎる。
僕の生きてきた都会という街には無いものが多すぎる。
生きているだけで、歩くだけで慣れない会話に全身がふやかされるような思いだった。
分からないなぁ。
分からないなぁ。
繰り返す。口笛でも吹くように口ずさむ。
「…分からないなぁ」
(もしも僕が)
(こんな町で)
(ランドセルを背負った帰り道、知らない老人に挨拶されるような)
(そんな)
(そんな、人生を生きていたら)
(もしも僕に)
(あんな父親がいたら)
(無償の愛、を)
(見返りなど求めず)
(そそ、ぐ)
(そんな)
そんな「しあわせなかたち」があったら、なぁ。
(なんて、ね)
空想アリア様
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