お前はいつだって完璧で、誰からも認められて愛されて、すぐそばにいるのに酷く遠い存在のだった。手を伸ばして触れても、笑っても、まるで紙切れ相手に独り芝居をしているような虚無感に苛まれてばかり。俺の心臓にはきっと、大きな穴があいてしまっている。
『俺達で犯人捕まえようぜ!』
そう呟けば、お前は小さく頷いた。その目は今も昔も変わらず真っ直ぐなままで、俺は喉がひくつく感覚を抑えきれない。備えもったカリスマ性。俺には無かったもの。俺が欲しくて堪らなかったもの。それをお前は一瞬で手に入れた。同じ土俵にすら立てていなかった。
「相棒」その言葉は俺を縛る言葉であり、お前を縛る言葉だ。
(なぁ相棒、気づいてるか?)
(完全無欠のお前の目の前にいる俺が一体何を思ってんのか)
(何を知っているのか)
(何を、したのか)
歪な形で繋がってしまった「仲間達」は進んでゆく。
真実の、確信へと。
(俺は願っていた。思っていた。折ってしまいたかった。壊してしまいたかった。何もかも出来ちまうお前という存在を。見て一瞬で理解した。こいつは違うって。俺はこいつになりたかったのにって。何処で間違えた?お前は俺であるべきなのに、なにをどう、どこで間違えてこうなった?なぁ、教えてくれよ「相棒」。お前は俺の相棒だろ?お前が認めてくれたんだろ?犯人を探そうなって、そうだ、俺がお前の相棒だ。俺はお前の相棒だ。相棒だよ。そうだろ、なぁ?)
俺は、お前になりたかったのか。
俺は、お前に認められたかったのか。
(……もう、どっちでもいいか)
俺には力があった。
お前にも力があった。
ただ、それだけだ。
俺はお前にあって俺に無いものの矛盾に疲れて、俺には力があって。
その繰り返しで、ようやく今に辿りついた。
「…なぁんだよ、バレちまったか、ぁ」
仲間達は皆俺を見ている。
信じられないというように、驚愕を顔に張り付けて。
皆言葉は無くとも言っていた。「嘘だと言ってくれ」って。
相棒も、お前も普段見せないような顔で俺を、俺だけを見つめていて。
「……陽介」
震える声で、呟く。
(何一つ間違えないお前の、唯一の間違い)
(それを与えたのが俺だというのなら、もうそれでいい)
「…相棒、なぁ」
後はもう、幕引きを待って笑うだけだ。
(お前は俺を相棒と呼ぶのか、犯人と呼ぶのか)
その口で、答えをくれよ。
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ツイッタで見かけた「陽介犯人説」をいてもたってもいられずだだだっと書いてしまった。
完璧陽介目線。独白もいいとこです。
でも、こういうのが書いてて楽しい!
P4G、発売おめでとう!!!!
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くあ、と誤魔化すように吐き出した欠伸を隣の彼は見逃さなかったらしい。色素の抜けた慣れない瞳はするりと滑るように僕を見て、ニヤリと細い光を帯びた。連想されるのは狐や猫といったずる賢い動物。それらと良く似た瞳で、彼は僕を映す。
「寝てないんですか?」
「いやぁ、そんな事は無いんだけどねぇ…あー、でも最近堂島さん厳しいからなぁ、どうだろうねぇ」
へらりくらりと笑ってはぐらかそうとしても、ふぅん、のあとに続いたのは無言の圧力。年下の癖に、こういうの技術を持ってると言うのが気に食わない。顔なんかは全然似てないのに、静かなプレッシャーの掛け方とかは堂島さんにそっくり。正直、苦手だ。僕は二度目の欠伸を今度こそ飲みこんで、ソファーに腰掛けたまま指先をじりじりと遊ばせた。
そもそも僕が堂島さんの家に来たのだって作れ作れと急かされていた書類を仕上げたからであって、別に彼に会いに来た訳じゃない。なのに今日に限って堂島さんは奈々子ちゃんと出かけていると言うし(早めに帰れたので二人でデート、だってさ。行先は勿論ジュネスだ)これはとんだ無駄足だった。じゃあこれ、堂島さんに宜しく。と駆け足回れ右した僕の手を掴んでまぁまぁいいじゃないですか、家の中で待ってたらいいですよ。なんて提案したのも彼。無言の押し問答は苦手だ。
「……なんなの」
先に耐え切れなくなったのは僕の方だった。静かなボリュームで明日の天気予報が流れているけど、そんなもんに気を取られるような彼じゃない。僕が問い返した事に満足したのか「ふ、」と憎たらしい顔で笑って(これがまた綺麗で似合っているのだから腹立たしい)何も言わず、ようやく視線をテレビへと戻した。
三度目の欠伸は噛み殺す。目のふちに溜まった涙がちりちりと僅かな痛みを伴ってどこかへ消えていった。耳には申し訳程度のアナウンサーの声。横には、慣れない温もり。
(…慣れないねぇ、全く)
次第に思考に薄い靄が掛かり始める。音が遠く、ここはどこか、夢か、そもそも起きているのかという判別すら滲んで溶けた。そうしていると急に温もりが近付いた気がしてビクリとするも、やっぱりそれすらどうでも良くなって、でもそれはきっと不快ではないからで。
あぁ、瞼の裏は真っ暗だ。
(でも、何故だろうね)
(少しだけ、心地良いよ)
(……下らない、や)
よほど疲れが溜まってのか、音も無く眠ってしまった足立さんの髪をさらりと撫でた。起きている間はさせてくれる訳も無い行為を、何度も何度も繰り返す。例えるなら、初めて恋を知ったような感覚。眩暈を引き起こしそうだった。
「……足立さん」
膝上にがっくりと落ちてきた寝顔は、いつも見る表情のどれよりも人形のように無機質で、僕はただこの人が幸せになればいいのに、と願った。
「良い、夢を」
あなたの生きる世界は、目を背けなければいつだって美しく、優しい。
欠伸一つなど容易く受け入れるくらいには。
だから次、目が覚めた時、少しでもあなたが笑えるますように。
強く強く、願う。
(何故なら、僕は、あなたを、)
―――――――
足立さんが幸せになれる話を、と思って書いたけど特に幸せにもなれていない足立さん。
足立さんはいつでも本音が緩まって頭の隅っこじゃ素直になるんだけど、どこかで少しでもそんな自分を小馬鹿にしないとどうにかなっちゃいそうなイメージ。
後この番長は二週目って言う裏設定付き。
ばかっぷるには程遠いね。