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声にならない言葉達は喉を突きぬけることなんてなかった。空気はぐるぐると僕の周りを渦巻いている。そこには優しい色なんてない。無色。手をすり抜ける。なにもない。ここには、なにもない。
行き先を失った両手は自身の喉に帰る。くびり締めた。僅かな何かを肺から心臓から僕から絞り出せればそれだけで意味があると、手のひらに神経伝わって残った力は精一杯。なのに何も出ない。耳の奥でざあざあと五月蠅い砂嵐が喚いている。心臓はばくばくと爆音を鼓膜に残す。僕の体内は必死に音を奏でていると言うのに、僕は、僕はなにも残せないなんて辛すぎる。何のために今まで生きてきたんだろう。与えられたものを捨てて、欲しくも無いものをかすめ取るように盗んで、透明の目隠ししたまま殺して。

(世界は嘘つきだ)

振ればカラカラと音のしそうな頭はぼんやりと全てを否定する。ここはやたらと静かだ。視界の端々を黒い生き物が走りぬけて僕を見て来る。沢山の目が、僕を見る。ああ、何もかもを殺してしまいたくて仕方ない。嘘をつかれるなんてまっぴらごめんだ。僕は嘘つきが嫌いだ。そんな馬鹿なら真っ二つにして臓物を抜いて繋ぎ合わせるが吉だ。

彼は、アイツは、笑った。
あなたは悲観的な考えが好きなんですね、と僕を笑った。

それだけで殺す理由に至る。アイツは僕を笑った。全身を流れる血液は一瞬にして冷却された。それを賄うように心臓は必死で動くスピードを上げた。アイツの笑顔を好きという奴らばかりの世界が更に嫌いになる程、アイツは僕の全てを否定してくる。お前が、君が僕の何を知っていると言うのか。冷却された血液は殺意に繋がる。接続された神経は君を殺すための武器を手にする。
だから早く来ると良い。
僕は君を殺して、それから、それからはまた次の次だ。ごめん、ちょっと思考回路が壊れ気味なんだ。なんてったって喉が、視界が痛い。優しいものは少ない。明日も明後日も来年も死ぬまで。なにも優しくないまま呼吸は続く。心臓は動き続ける。なんとも、救いようのない話だ。

(君は言ったんだ)

だらん、と下げた両手に首の感覚はまだ残っている。勿論、この喉にも痛みは残っている。
忘れない。僕は受けた痛みは忘れない。悲しみは、期待は、いつだって反比例で僕に突き刺さる。


(「この世界は美しくて仕方ない」と、そんな嘘をついたんだ)


極刑を、下す。

僕は嘘つきが嫌いだ。





―――――――――――――――
やっぱり悲しい足立さんになった。
主人公から見える優しい世界は、きっと足立さんに取って核兵器何だと思う。
優しい目は殺意に、好意は衝動に。
そんな足立さんは、早く幸せになればいいと思います。









 
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