昼飯時、やって来た屋上に人影は無い。入学当初はまばらながらも人数がいたような記憶があるけれど、横のコイツ、完二が出入りするようになってから激減したらしい。まぁ俺も人ごみとかが苦手な方だから、少しばかり一緒させてもらうようになって今に至る。
いつものようにフェンス近くに座り昼食を取り始めた瞬間だった。横を見ると、実に美味そうに弁当を食べ始める完二がいた。それはまぁ当たり前なのだけど、次いで俺の口は、呼吸するのと同じくらい自然にある言葉を紡いでいた。
「なぁ、完二。キスしてみる?」
ぶっ。
瞬間、まるで漫画のワンシーンのように口から食べかけの飯粒を拭きだす姿に俺は「あれ」と疑問を覚える。なにかおかしい事をいったかな。いや、個人的には言ってないつもりなのだけど。あぁでも、客観的に考えればちょっとおかしな発言なのかも、しれない。
「~~~~~おまっ、尚紀テメっ……何言って……殺すぞテメェ!!」
ひとしきり咽た後、ポケットから綺麗に畳まれた不良らしからぬデザインのハンカチを取り出して口元を拭う。次に振り向いた表情は例えるなら鬼の形相で、子供なら泣くに違いない。しかし俺は幼馴染という間柄ゆえなんてこともなくそれをかわし、うーんと口元に考え込むよう手を当てる。
「いや、なんていうか。特に悪気とかはないんだけどさぁ」
「なんだそりゃ!?…まさかお前まで俺をホモ呼ばわりするつもりじゃねぇだろうな!!あぁ!?」
なんだ、知らぬ間に地雷を踏んでいたらしい。酷く切羽詰まった様子で迫られるので内心こちらが焦ってしまう。良く見れば怒りからか頬も赤く火照っているようで、表情は平静を装っているものの、素直に申し訳なく思った。
「……ホモ、とか。そこまで言っては無いけど」
俺が言葉を選ぶようにゆっくりと間を置いて返すと、噛みつかんばかりの勢いを抜かれた完二が「あ?」と実に間抜けなまま固まった。それから急に立ち上がり、平静を取り戻すように深呼吸するも、目線や腕をあたふたさせながら迫ってくる。
「じゃあなんだよ!!」
「…別に、なんとなく。こないだ女子がそういう話題で盛り上がってたなぁ、って思いだして」
まさかこんなに完二が慌てふためくなんて思ってなかったから、本当に申し訳ないとしか言いようがない。すいと目線を逸らして口元に苦笑を滲ませて「ごめん」と口にした言葉を柔和にすると、今度こそどうしたらいいのか分からなくなって挙動不審になっている完二が見えた。恐る恐る目線を戻すと、ぐ、と言葉に詰まっている不良が一人。中々他の奴らじゃ目にする事もないだろうレアな光景に、何故だか俺は酷く満足していた。
「…………まぁ…なら…いいんだよけどよ…」
暫くして気まずそうに肩をすくめた完二は俺の横にどっかりと腰を下ろし直し、ほとんど手付かずになりかけていた弁当を掻き込み始めた。まだ実は落ち着いていないのか、申し訳ないなぁと再三思う。それでも今日の出来事はちょっとばかり反応が面白かったので心に留めておこうと思った。
「マジでごめんって」
「……色々とシャレになってねぇぜ…ったくよぉ…」
「お詫びに今度またコロッケ作ってきてよ」
「おぉ、いいぜ!!………ってなんで俺が詫び入れる形になってんだよ!!」
冗談だと言うのに、相変わらず馬鹿正直な完二。その頬に今時、まさかのご飯粒を見つけて、俺は目元に涙が滲むくらい笑った。
(あぁもう、可愛いよなぁコイツ)
――――――――
尚完っていうか尚→完。
ちゃんと尚紀は完二の事を好きで、そういう意味合いも込めて「キスしてみない?」って言ったんだけどねー。普段強い先輩たちからホモネタで弄られまくってる完二君には逆効果でした。でも完二の色んな部分を沢山見たいと思ってる尚紀はどんな完二も好きで、だからやっぱり総合して好きっていう結論が出ちゃうんだよ。可愛いなぁ好きだなぁいつかはキスしたいし、するし。っていうのがウチの尚紀です。負けという文字はない(笑)
しかしこれ誰得だよ。私得!!
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